歩行の認知症予防効果
高齢者で寝たきりの人は認知症になりやすいと言われていますが、その根底にあるのは歩
かないことによる血流(脳への血流)の悪化が原因と考えられています。つまり、脳の働
きにかかわる神経細胞は、血流が悪いと死滅しやすく、再生能力もないと言われているか
らです。
実際のところはどうなのかと言うと、高齢者でアルツハイマー型の認知症を患っている人
は、やはり脳の血流が低下しているのだそうです。しかし、運動をすることで記憶をつか
さどる海馬の入り口の細胞が増加する(認知症の予防・改善の可能性がある)こともわか
ってきています。
遠又靖丈先生の歩行時間と認知症の研究でも「歩く時間が多い方が認知症が減る」という
結果が出ていて、1日1時間以上歩く人は、認知症の発症が18%減少すると言われてい
ます。また、福岡県の久山町モデルでは、週に1回以上の運動をしている人は、アルツハ
イマー型認知症リスクが40%も低くなるというデータもあります。
これらのデータがすべてとは言いませんが、少なくとも「週1回程度の運動習慣」だけで
も認知症の予防効果があることは確かなようです。
また、実際に、歩くことが苦にならない人は、運動による効果はもちろんですが、日常生
活においても活発に過ごしている傾向があり、何気ない「おしゃべり」なども認知症予防
では大きな意味を持っているのです。
認知症を予防する歩き方
海馬や大脳皮質の血流に関係しているのは、アセチルコリン神経から出るアセチルコリン
という化学物質で、脳の内部の血流を良くしたり、脳を守るタンパク質(神経成長因子)
を増やす働きがあると言われています。
そのアセチルコリン神経を活性化するために役に立つのが「歩く」ことなのです。しかも
その目的においては、歩く速度はあまり関係なく、年齢差もないと言われていますので、
自分に合ったスピードでゆっくり歩けばいいのです。
ちなみに、アセチルコリンが最も効率よく増加するのは「普通に歩いたとき」とも言われ
ていますので、無理をして速く歩くより、仲間と会話を楽しみながら普通に歩くのがいろ
いろな意味で認知症予防には良い結果が得られるのかも知れません。
一人で歩く時でも、周囲の景色を楽しんだり、そこからイメージを膨らませたりしながら
歩くことでも同じような効果が得られます。
また、運動というのは歩くことだけではありませんので、掃除や洗濯、買い物など、無理
のないところで体を動かす習慣をつけることなら、1日30分程度の運動はそれほど高い
ハードルでもありません。
要は、積極的に取り組むかどうかの気持ちの問題が大きいのです。
とは言っても、なかには関節痛などで歩けないという人もいるかも知れませんが、アセチ
ルコリンに関しては、皮膚や筋、関節に刺激を与えることで同じような効果が得られると
も言われています。手や足の皮膚をゆっくりとさするだけでも効果があると言いますので、
ゆるやかに乾布摩擦をするような気持ちでやってみて下さい。
いつ頃から予防するというものでもありませんが「年齢相応の物忘れ」が多くなったと自
覚したときが始め時かも知れません。同時に加齢とともに不足しがちになる知力回復のた
めの栄養分もサプリメントなどで補給すると一層効果的です。